経過

2006.12‐2012.4 語句関連分析(MSOM)
 2003年頃から,各個人の点数のパターンや相互評価の点数などから,自己組織化マップを用いて学習者の類似度を分析しました。記述内容を分析したのは,2006.12(日本教科教育学会第32回全国大会)からで,記述内容の単語を自己組織化マップに配置しました。文章の形態素解析,重複単語の削除,各単語の数値化,自己組織化マップの作成等,各ステップごとにExcelを用いた分析ファイルがあり,各ステップで結果がでたらそのデータを次にというように,手動で行っていました。最初に分析したのは,生徒の観察・実験の記述内容です。2007.8(日本教科教育学会第32回全国大会)では,各分析ファイルをシートにし,関連づけて自動化し,ほぼ現在に近い分析方法を開発しました。そのときには,授業における教師の発話を分析しました。そこから2009.11(日本理科教育学会北陸支部大会)までは,授業分析に用いています。また,同時期に,教科書の内容の分析や,ワークシートの記述内容の分析などにも用いています。
 さらに,共同研究において,TIMSSの記述問題に対する子どもの回答を対象に,2008.12-2011.8(日本教科教育学会第34回全国大会,日本科学教育学会第33・34・35回年会)に,自己組織化マップを用いて分析を行っています。
2012.4には,形態素解析やExcelへのデータの貼り付けもすべて自動化したシステム「MSOM」を作成し,公開しました。

2010.8-2012.12 自由記述評価(MsomLab)
 MSOMの開発においては,単語を自己組織化マップに配置しましたが,2009年頃から書かれた文章のほうを自己組織化マップに配置することにより,文章の類似性を示すことができるのではないかと考えました。また,TIMSSやPISAにおいては,児童・生徒の科学的な記述についての問題点が指摘されていました。そこで,自由記述したものを自己組織化マップを用いて評価できないかと考えました。そして,2010年度から,VB.NETを用いて,デスクトップ上で自由記述を評価するシステムの開発を行いました。2010.8(日本理科教育学会第60回全国大会)にデスクトップ上で,TIMSSの自由記述問題の回答を評価できる試作版を公表しました。
 次に,システムを広く活用してもらうために,デスクトップ版をもとにweb版の開発を行うことを考えました。2011年に開発を始め,2011.5にはレンタルサーバーによって,動作確認を始めました。動作の確認ができたため,2011.9よりサーバを設置し,2011.12にweb版を公開しました。その後,改善を図り,2012.12に完成版をアップしました。

2012.11- 交流システム(CS_MSOM)
 自由記述評価システムの開発においては,自己組織化マップを用いて文章の類似度を示しました。この方法は,リアルタイムで入力された文章の分析にも用いることができると考えました。具体的には,1クラスにおいて,自分の考えをwebサイトに氏名とともに入力し,その入力した文章の類似度が自己組織化マップに配置されるとともに,その内容を見ることができれば,クラスでの交流が容易になると考えました。
 そこで,2012年9月頃から開発を行い,2012.11には開発した結果を公表しました(日本理科教育学会北陸支部大会)。2012.12に中学校などで実際に用いてみました。
また,webにおける入力データや自己組織化マップの結果をデスクトップ上でも利用できるように,デスクトップ版の開発を行いました。その際,web上で入力したものばかりでなく,授業中に記述したものを後からテキスト化し,分析利用できることを考えました。開発したものは2013.10に公開し,ダウンロードできるようにしました。


6.2013.4 連想モデル(MAMM)
 ホップフィールドモデルについては,1999年(日本理科教育学会第49回全国大会)頃に,Exceを用いて想起に関するシミュレーションを行いました。それから数年用いましたが,その後しばらく用いていませんでした。しかし,学習や授業設計を行う際に,ある自然事象に関連する事項が想起されれば役立つと考え,web上で活用できるものを開発しました。とくに,理科の単元の評価規準をデータとして,単語の関連を分析し,単元を選択してキーワードや文章を入力すると,関連する単語を想起するモデルを作成し,2013.4に公開しました。研究内容については,2013.11に公表しました(日本理科教育学会北陸支部大会)。

2013.11-2016.2 観察・実験課題(MsomLab2)
 これまでに開発した自由記述評価システムは,ペーパーテストに基づく問題でした。理科の場合は具体的な自然を対象にしているため,問題を具体的に示すことも必要であると考えました。このような点をふまえて,①問題を具体的に示すこと,②観察・実験に関するものに重点を置くこと,③答えについても具体的に解説を加えること,を考えました。そこで,これまでの自由記述評価システムを発展させて,動画によって観察・実験に関わる自由記述の問題を提示し,自動で評価するシステムの開発を行うことにしました。システムはweb版とデスクトップ版の両方の制作を考えています。開発は2013.4より始め,概要については2013.11(日本教科教育学会第39回全国大会)に公表しました。2016.2に開発を終了し,web版は公開中です。デスクトップ版は理科教育関係者に配布しました。開発時における予告ビデオ,観察・実験のビデオ作成のための手書き絵コンテ(小学校版.pdf中学校版.pdf)です。当初の絵コンテと最終的な実験が異なったものもありますが,これは実験がうまくいかなかったためです。最終報告書は次の通りです。⇒最終報告書


2013.12- テキストマイニング(TM_MSOM)
 CS_MSOM開発では,1クラスの人数の文章を自己組織化マップに配置し,類似度を分析しました。もっと多くの文章をこの方法で分析することにより,文章を整理できると考えました。それは一つのテキストマイニングとして用いることができると考えました。そこで,CS_MSOMをもとに開発を行い,2013.1211に公開しました。CS_MSOMをもとにしたため,当初,CS_MSOM2と命名していましたが,その機能からTM_MSOMに改名しました。
 文章においては,前後において書いたものとか,2つの異なるクラスとか,予め大きなカテゴリーがある場合に,それがどのように自己組織化マップに分布しているかで,カテゴリー間の共通性や差異性が分析できます。そこで,カテゴリーごとにセルの色を変えて分析できるものを開発し,TM_MSOMCAとして,2014.11に公開しました。


2014.10- 連想記憶モデル(Mamm_Msom)
 これまで開発した連想モデルのMAMMでは,刺激語をもとに想起される単語しか表示できませんでした。そこで,想起される単語から,文章を想起できるように考えました。想起された複数の単語から,文章を構成するためには,これまでに用いてきた自己組織化マップによる方法を用いることができると考えました。つまり,ホップフィールドモデルに自己組織化マップを連動させるようにシステムの開発を考えました。このシステムは,キーワードや文章を自由に入力することにより,それに関わる文章を想起するというもので,教師が学習内容の関連事項を確認でき,授業設計に役立てることができると考えられます。このシステムは,2014.10に公表しました(日本教科教育学会第40回全国大会)。2015.10(日本教科教育学会第41回全国大会)には,想起されたキーワードが類似性していれば近くに配置されるように2次元のイメージマップに配置し視覚的にわかりやすくしました。
 2017.9(日本教科教育学会第43回全国大会)と2017.12(平成29年度第4回日本科学教育学会研究会)においては,中学校第2学年の「気象とその変化」の内容を対象に,想起される内容を次の6つのカテゴリーに分けて表示するとともに,イメージや観察・実験については図が表示されるようにしました。これは授業設計において「具体-イメージ-抽象」の知識の関係が図れるように考えたためです。カテゴリーは,「a:一般的な説明のみ,b:根拠や理由を含む,c:有用性や意義を含む,d:イメージを含む,e:具体物がある,f:観察・実験を含む」の6つです。授業設計に役立てるとともに,今後このモデルをたたき台にしながら,人間の想起プロセスの解明にも役立てていきたいと考えています。
 参考>>>平成29年度第4回日本科学教育学会研究会資料



2016.8- 描画の分類と評価
 これまでの研究では,自由記述などを自己組織化マップで分類したり評価したりしてきました。一方,理科では観察・実験のスケッチや自然事象をイメージで表現するなど,描画で表現することがよくあります。そこで,2016年に描画の分類や評価を行うシステムの開発とを考えました。まず,2016.8にExcelを用いて描画を分類できるものを開発しました(日本理科教育学会第66回全国大会)。そして,2016.10にはそれらをVisualBasicによって作成しました(日本教科教育学会第42回全国大会)。2017年にはそれら改善し,2018.8には描画の評価もできるようにしました(日本理科教育学会第68回全国大会)。システムは,自己組織化マップを用いて類似した描画が近くに配置されるようにしました。その際,ディープラーニングなどで用いられる,フィルタと畳み込みの考え方も取りいれました。下図は,気孔のスケッチが自己組織化マップで分類されたもので,それを教師が評価します。マップ(2番目の図)に配置された図のセルをクリックすると右の枠に拡大され、色のついた得点をクリックするとそのセルの枠に色がつき評価結果が記録されます。類似した描画が近くに配置されているので,教師は評価しやすくなります。また,評価されたマップができると,今度は,未評価の描画を読み込みこむことにより自己組織化マップに位置付けられます(3番目の図の「●」の位置)。位置付けられた近くのすでに評価された類似の描画を見ることにより,未評価の描画を評価することができます。開発においては,どのフィルタが適切であるかをいろいろと検討しました。その適切なフィルタは,たとえば観察するときの視点や留意点になると考えられ,指導に役立てていけるのではないかと思います。




2018.8- 継続的自己評価の分析
 これまでに学習者が各授業の達成度などを比較して振り返る,継続的自己評価を行ってきました。一つの単元において,学習の達成度などを相対的な折れ線グラフで表現するものです。このことにより,学習者はこれまでの学習と比較しながら,今日の授業の自分の学びを振り返ることになります。その結果,達成感を味わったり,次の学習への改善意欲を高めたりする効果を上げることができました。一方,グラフによる評価のため,教師においては,学習者の達成度を数値的にはとらえにくいといった問題が生じました。そこで,2018年から描画の分析システムを適用し,自己評価のグラフを分析し,学習者の自己評価や授業の特徴を明らかにするシステムの開発を行うことにしました。2018.8に自己評価のグラフを自己組織化マップで分類することによって,学習者の自己評価の特徴をとらえやすくするようにしました。また,2018.11に自己評価のグラフの数値を読み取り,各学習者の自己評価の高低を示したり、各授業の達成度などの平均を数値化したり、自己評価から授業の類似性を死すことができるようにしました。



2019.10- 学力調査と学習状況調査の関連の分析
 各学校では、学力調査や学習状況調査の結果を基に,学校の授業改善や学校の運営を行っています。その改善は,おもに各調査項目の数値の大小に基づくものが多いと思われます。当該の学校において学力と学習状況がどのように関連し,学校での取り組みが学力や学習状況に影響しているかといった効果の分析は難しいといえます。そこで,2019年から学力調査と学習状況調査の関連を分析し,学習指導や学習状況の改善を図るための情報が得られる分析システムの開発を行うことにしました。各学校で利用してもらうためにExcelで開発中です。分析システムではまず学習状況調査の回答を自己組織化マップに配置し、同じような回答の項目が近くに配置されるようにしました。その自己組織化マップに学力調査を位置付けるように考えています。しかし、学力調査の通過率と学習状況調査の評定尺度とは質的に異なります。そこで、数値幅を同じにしたり、座標軸を少しずつずらして適切な位置を求めるなど、現在試行しながら開発中です。下図のAに番号がついた項目が学習状況調査の項目で、Gに番号がついている項目が各学力調査です。