理科における課題設定と科学的な見方や考え方

理科における課題設定の重要性
 どの教科においてもいえることですが,授業における課題設定は授業の出発点であり,その後の展開が決まってくるということで重要な場面になります。特に理科においては,自然を対象にしているためそのことがいえます。なぜなら,授業において具体的な自然を対象にしたときに,そのとらえ方はある意味では無限にあるといえるからです。たとえばアリを見ただけでも,「小さいけど足はどこからでているのか」「全体の形はどうなっているのか」「何を食べているのか」「どこから来たのか」…など,学習の対象になる内容はいくらでもあるといえます(→この具体例は,「初等理科教育法」の教科書<パスワード必要>を参照、一部の内容は、ここをクリック
 一方,例えば国語では,基本的には教科書に書いてある文章が対象になりますので,それだけでも対象が限られてきます。教科書や一定の資料を対象にする学習では,それを用いるということである程度内容が絞られているわけです。理科の場合,「まずは対象となる自然を見てみましょう」だけでは子どものとらえ方が様々なので,教師の意図した視点から見てくれない場合があります。教師は,「疑問に思ったことを何でも言ってみましょう」といって,子どもにいろいろと発表させますが,結局は教師が授業計画にあった都合のよい疑問だけをとりあげて,授業を進めてしまうことがあります。これでは,子どもは教師の意図を探ることに一生懸命になり,何も発表しなくなってしまいます。
 そこで,学習を成立させるためには,自然をとらえる視点を設定するように課題をもってくる必要があります。その視点をはっきりさせるために,たとえば事象を比較して,教師の意図した視点を明確にさせる場合があります。「どうしてこちらのインゲン豆のほうが,葉が緑で大きいのか」「どうしてこちらの豆電球のほうが明るいのか」など。また,「車をはやく走らせよう」「遠くに玉を飛ばそう」など技術的な目標をもたせて課題を絞る方法などがあり,自然をとらえる視点を絞る課題設定が必要になります。
理科の見方・考え方
 自然を見る視点について,何でもよいというのではなく科学的な視点や枠組みでとらえることが学習において必要になります。それが,科学的な見方・考え方ということになります。人工知能作成における機械学習の中でもデイ―プラーニングにおいて説明(「脳科学と理科教育」参照)したように,人間らしい認識や思考ができるには,中間層の特徴量検出が重要になります。これは一つの視点や枠組みを形成するものであり,イメージにも関わってきます。教育においてはこの視点や枠組みを意図的に形成することになります。科学的な見方や考え方には,「因果」「類」「定性・定量」「時系列」「空間・視点移動」などがあります(「深い学びのための理科の授業設計と指導法」を参照)。このような見方・考え方でなければ,科学的な考え方にならないと考えられます。人間の認識や思考においては日常生活においても特徴量検出が自動的に行われます。これは,ディープラーニングにおいてもいえることです。イヌやネコの定義を教わらなくても,イヌやネコの分類,つまり「類」の見方・考え方は形成できています。それでは教育は必要ないのかというとそうではありません。日常生活での特徴量検出は科学的なものとは限りません。日常生活において形成される特徴量検出は素朴概念とよばれています。科学的でない場合は,学習においても修正が困難になることが知られています。したがって,科学的な見方・考え方が形成されるように工夫することが必要になります。
 科学的な見方・考え方を確立するには,観察・実験を通した実証によって行います。理科の場合,問題解決の方法としては,予想から観察・実験による実証,結果から考察といった基本的な方法があります。すべてがこれに当てはまるわけではありませんが基本になります。したがって,課題設定がうまくいけば,ある意味では,学習展開がある程度自動的に決まってきます。他の教科では,課題を絞り込みやすく設定できやすくても,その教科の見方・考え方を形成するための展開や問題解決のため方法が,難しい場合があります。したがって,教科によって授業設計の難しさはさまざまで,どの教科にも難しい点はあるといえます。