学校現場では「知識」や「思考」という言葉がよく用いられますが、教師が「知識」や「思考」についてどれほど考え、研究しているかといえば、それほど多くないように思われます。AIの研究者の中には、「作ることによって知る」といったアプローチで研究を行う人もいます。たとえば、「AIではこのようにすると人間らしく振る舞うが、実際の人間はどうなのか」といった観点から研究したり、そもそも人間がどのように知識を形成し、思考するのかを研究する人もいます。これらの研究の中には、知識や思考の本質は何か、人間はどのようにあるべきかを考えるものもあり、人間について深く研究していると言えます。こういった研究者のほうが、教育研究者よりもはるかに「知識」や「思考」について深く考えており、また、どのようにあるべきかという教育観や哲学をしっかり持っている場合もあります。このサイトでは、AIの研究の観点から教育、特に理科教育について述べています。「AI」という言葉は一般的によく使われていますが、現在は特定の状況や処理、たとえば画像処理など、特化した処理システムであり、これを特化型AIと呼びます。特化型AIは、特定の状況や処理のみで利用でき、何にでも用いることができる汎用性はありません。汎用性のあるAIは「汎用AI」と呼ばれます。IBMなどでは、特化型AIを「Cognitive
System」と呼んでいます。汎用AIは特化型AIとは全くレベルが異なり、簡単に作成できるものではないと言われています。ここでは便宜的に、すべて「AI」という言葉を用いています。
- イメージの重要性
- 現代では AI が急速に発展しています。これはハードウェアの進歩とともに、大量のデータをディープラーニングによって特徴量検出できるようになったことが大きな要因です。この特徴量検出は、多少語弊があるかもしれませんが、簡単に言えば「イメージ」のようなものを形成できるようになったと言えます。そのため、言語や記号では表現しにくい画像処理や音声認識などが容易になりました。コンピュータは論理記号の処理には優れていますが、人間が簡単に行う視覚や聴覚による処理、またパターン処理などは苦手としてきました。このような
AI の発展を踏まえると、人間が人間らしい思考や判断を行うためには、情報の特徴量検出をしっかり行うこと、すなわちイメージを形成することが重要であることが示唆されます。図に示したニューラルネットワークにおいては、具体的な情報→特徴量検出→抽象化された言語・記号という流れで処理が進みます。これにより、理科の学習でも、具体的な自然事象から特徴量検出やイメージ形成、さらに抽象的な言語・記号への関連付けが重要であることが分かります。抽象的な言語や記号だけで結論を記憶しても、具体的に活用できる思考力は身に付きません。したがって、具体的な事象のイメージと抽象化された言語を結びつけるような学習の工夫が大切だと言えます。
- 理科における素朴概念の解明とAIモデル
- 1990 年代には、日常生活の中で子どもがすでに形成している自然事象に関する解釈や枠組みを「素朴概念」と定義し、研究が進められました。また、学習における素朴概念の影響や、学習過程で素朴概念を修正する研究も盛んに行われました。しかし、その後、これらの研究は下火になりました。これは、ある程度典型的な事例が調査されたためと考えられますが、なぜ素朴概念が形成されるのかという本質的な分析が十分になされなかったことも、研究の発展性が乏しかった理由の一つだと思います。ディープラーニングに代表される AI では、自動的に特徴量検出が行われます(教師なし学習)。これは「 google のネコ」で有名になりました(詳しくは「 google のネコ」で検索してください)。ディープラーニングなどのモデルを参考にすると、素朴概念がどのように形成されるかや、その特徴の分析に活用でき、今後の研究の発展が期待できると考えられます。 。
- 科学的な見方・考え方とその形成について
- 学校教育では、見方・考え方の育成が重視されています。理科では、科学的な見方・考え方が重要とされています。こうした見方・考え方は、 AI においては特徴量の検出を行う枠組みともいえます。教育では、その教科で必要な情報の特徴量を検出することで、その教科ならではの情報処理が円滑に行われるようになります。この特徴量検出がどのように形成されるのか、どのような性質があるのかについては、
AI モデルがいろいろと参考になるとのではないかと思います。 AI モデルにおける特徴量の検出は、情報処理の途中段階に位置づけられます。こうした途中の処理過程が重視されるようになったことは、情報処理の結果として得られる抽象的な言語や記号による知識だけでなく、思考力という過程にも注目が集まるという点で意義があるといえます。
- 汎用的な能力
- 総合的な学習では、ある程度包括的なテーマについて問題解決を行い、各教科で培われた能力を活用する学習が行われます。教育においては、このような活動や長年にわたる教科の学習を通じて、各教科に共通する一般的な思考力や問題解決能力が培われてきたと考えられます。しかし、各教科の枠組みを超えたより一般的な能力がどのようなものであり、どのように形成すればよいのかについては、十分に解明されていないのが現状です。これは、ある状況において知的な処理が可能な特化型AIの作成はできても、一般に通用する汎用型AIの作成が困難であることと関連していると思われます。もし人間のこのプロセスが解明できれば、特化した特徴量検出から一般的な特徴量検出を構築でき、汎用AIの作成も可能になると言えるでしょう。このように、AIの研究と教育は深い関係があると考えられます。