近年、高機能広汎性発達障害(HFPDD)児のナラティブ(語り)と心の理論の発達が相互に促進しあう関係であることが明らかにされている。そのためHFPDD児のナラティブを明らかにすることは彼らの他者や自分自身についての心の理解を促す支援を考える上で重要なことである。本研究ではHFPDD児のナラティブの特徴を明らかにすることを目的として6歳〜15歳までのHFPDD児13名と同年代の定型発達児のアニメーションの再話と個人的体験の語りを収集した。そしてそれぞれの語りについて、量的にはアイディア・ユニット(以下IU)の数とプロット(粗筋)の数によって検討し、質的には内容理解について「面白かったところ」と登場人物に対する評価という情動的な側面からの検討を行った。また「心の理論」課題の正答数と再話におけるそれぞれの項目との関連を検討した。その結果アニメーションの再話ではIU数、プロット数ともにHFPDD児が少なく、ストーリー展開に重要なプロット(高重要プロット)がHFPDD児は有意に少なかった。しかし再生されるプロットのパターンは定型発達児と同じであった。また内容理解を確認する質問に対しては両群間に差は見られなかった。ストーリーの「面白かったところ」に対する回答は定型発達児では月齢に伴ってプロット反応からストーリー反応へとより概括的な反応へと変化していたが、HFPDD児においてはそのような傾向は見られず内容のない回答(「全部」反応と呼ぶ)の割合が多かった。登場人物の評価はHFPDD児では外見描写の割合が多かった。「心の理論」課題については両群間で差は見られなかったが、HFPDD児では理解質問正答数との相関が見られた。最後に個人的体験の語りについてIU数を比較したが、両群ともアニメーションの再話よりも少ない結果となった。考察ではアニメーションの再話パターンや内容理解には定型発達児と差はないが再生プロット数が少ないことから、HFPDD児は聞き手に必要と思われる内容を相手の状況から判断して選ぶことに困難があるのではないかと結論した。またHFPDD児における「心の理論」課題の成績と内容理解の程度との相関関係から、本研究においてもHFPDD児のストーリー内容理解と他者の心的状態の推測能力には密接な関連があったと結論した。