高機能自閉症スペクトラム障害とコミュニケーション

障害児教育講座 指導・臨床研究室/子どものこころの発達研究センター

大井 学

Division of Special Education, Communication Disorders Group

http://www.ed.kanazawa-u.ac.jp/~oimanabu/

 

 高機能自閉症スペクトラム障害をもつ子どもについて、1)母親の疑問詞質問とはい・いいえ質問に対する応答の意味的不十分さ、語用論的不適切さ、2)比喩や間接発話を含む種々の多義的表現の理解、および3)間接要求・間接非難・皮肉の理解について、年齢などでマッチした定型発達の子供たちと比較し、高機能自閉症スペクトラム障害の子供たちのコミュニケーション障害の特徴を検討した。彼らは定型発達児に比べて、疑問詞質問への不十分応答がはい・いいえ質問よりも有意に多かった。多義的表現の意味については定型発達児と理解に差がないケースが圧倒的で、かつ字義的理解への一方的な偏りは認められず、非字義的理解への偏りも認められた。間接要求の非字義的意味を言語化することは定型発達児より劣っていたが、字義的意味から区別して選択することには差がなかった。また、両群ともに皮肉理解は間接要求理解よりも容易であった。さらに、文章提示・漫画提示・ビデオ提示では、間接発話理解全体の成績に定型発達児との差がなかったが、疑似的な実際伝達場面では高機能自閉症スペクトラム障害の子どもの方が間接要求に応じないことが有意に多かった。

 

1.疑問詞質問とはい・いいえ質問への応答

 母親からの疑問詞質問に対する応答は、はい・いいえ質問に比べて、高機能自閉症スペクトラム障害群でも定型発達群でも不十分である割合が高かったが、高機能自閉症スペクトラム群では、その度合いが定型発達群よりも有意に強かった。語用論的に不適切な応答

は、いずれの質問タイプについても高機能自閉症スペクトラム障害群の方が割合は高かった。また、疑問詞質問とはい・いいえ質問への応答の不十分の割合の差は、高機能自閉症スペクトラム障害群では年齢と有意に負の相関を示したが、定型発達群では相関はなかった。

 

2. 多義的表現の理解

 多義的表現の字義的及び非字義的意味を表す2つの絵を選択させるという方法で、17の多義性のタイプにわたる50の多義的表現の理解について、2年生から6年生までの一般小学生50名と高機能広汎性発達障害の小学生53名とを比較した。高機能広汎性発達障害の小学生は4つの多義的表現について一般小学生よりも字義的に理解し、6つの多義的表現についてより非字義的に理解した。しかし残る40の多義的表現の理解に一般小学生と差がなかった。この結果は高機能広汎性発達障害をもつ子どもが多義的表現を字義的に理解するという見方が一面的であることを示している。

 

 

3.間接発話理解

 高機能自閉症スペクトラム障害群は定型発達群よりも、間接要求・間接非難・皮肉の非字義的意味を言語化することが劣っていた。また、心の理論課題が第二次水準通過者と非通過者とで差がみられた。この差は定型発達群では見られなかった。

1HFASD群、定型発達群の間接発話課題における「言語化」の得点

 

3HFASD群の各ToM群における間接発話課題の「言語化」の得点

     図4:HFPDD群は実際場面での間接要求を受け

入れることが定型発達群より少ない

 

大井 学200710歳から11歳の波乱を超えて:仲間及び母親とのコミュニケーションへの支援.アスペハート、17号、18-23

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