高機能広汎性発達障害にともなう語用障害:特徴、背景、支援

大井 学

コミュニケーション障害学23巻2号p87-104

 

1.はじめに

Kanner1943)以来、自閉症スペクトラムの鍵徴候が言語の社会的使用の異常さにあることはつとに指摘されてきた。それを語用論の障害(以下語用障害)として特徴付けようとする試みが始まったのは1980年前後である。Tager-Flusberg( 1996)によれば、70年代までに言語を持つ自閉症児の音韻・統語・形態がほぼ残存していることが示され、80年代には意味障害仮説に疑問が投げかけられ語用論が深刻な障害を受けているという見方に変化し、90年代には「心の理論」の欠如など語用障害の背景に目が向くようになった、とされている。本稿では、1980年頃から行われてきた語用障害をめぐる研究について、その特徴と背景及び支援の3つの視点から展望し、この方面でとりくむべき今後の課題を提示したい。

 障害の多様性と持続性 指摘されてきた語用障害は実に数多い。既知の事を聞くなど質問の使い方の問題(Bernard -Opitz 1982)、聞き手として聞いたままを話し手として口にする、直接引用を間接引用が期待されているところで使う、ベッドタイム独語に対話構造がない、丁寧さの調節の失敗、年齢差を考慮しない話し方、談話の文脈における関連情報と無関連情報を区別することが困難、聞き手に価値のない情報提供、新旧情報を区別しない、衒学的で冗長な話し方、人称や呼びかけ形式の不正確な使用、前方照応代名詞、定冠詞、関係節を用いない(Baltaxe 1977)、音律が乏しい(Baltaxe 1985)、間接発話の誤解(Paul & Cohen 1985)、話題が維持されない、相手のコメントの無視(Tager-Flusberg 1989)、話し手の意図した意味の認知失敗、反語や比喩を理解しない(フリス 1991)、過剰な質問による開始、適切性条件を満たさない言語行為、会話の原則遵守の失敗、ターン・テーキングの合図の失敗、不適切な発話交替、聞き手の注意を得ない、要請された明確化の失敗(McTear & Conti-Ramsden 1992)、断行的な発話の制限(Eales 1993)、命題態度を理解しない(Tager-Flusberg 1993)、結束の誤り(Fine et al.1994)、先行話題への逆行や同一話題反復、同意を得ない話題変更、重要情報を後回しにする、聞き手の知識を考慮しない(ハッペ 1996)、身振りの乏しさ(ギルバーグ 1996) 過剰な字義通りの理解(Mitchell et al. 1997)などである。

会話を微視的に分析すると、短いやり取りの中にも多様な語用障害が生じていることが示される。Oi2005)は高機能自閉症またはアスペルガー症候群の子どもと大人12組の各々数ターン程度の会話に、判断要請の無視、間接的非難の無視、間接的命令の無視、言語行為の条件の欠如、疑問詞質問の無視、注意要請の無視、指示対象変更の無視、先行会話への相手の発話の関連付けの失敗、過剰に特殊な対象指示、特異な表現、ディスプレイの欠如、同意なしの話題変更、不適切な発話、大人の発話の意図の誤解などが発現していることを見出した。

 語用障害のもう一つの特徴は、成人後に至っても持続する点にある。ハッペ(1996)は高機能成人の自伝を分析し、聞き手を戸惑わせる話題転換、同一話題の間をおかない反復、聞き手の知識状態への無頓着、対象指示の特殊すぎる表現、自己流の言語表現、結束関係利用の失敗を指摘している。大井(2004,2005)は20代半ばの青年たちの会話に、些細なことについても交渉できない、率直に物をいいすぎる、自分だけが長々と話し続ける、断りなしに話題を変える、相手を不快にする言葉遣い、視線・表情・対人距離などの非言語的要素の問題、相手のことばの意味を推論できない、冗談・比喩・反語の理解困難を指摘した。彼らの言語使用能力は成長しないわけではないが、発話のレパートリーが拡大し洗練されても、克服されがたい問題が残っていくのである(大井,2002)。

 診断カテゴリーによる違い 本稿では高機能自閉症、アスペルガー症候群(加えて特定不能の高機能広汎性発達障害も)を一括してその語用障害について論じようとしている。ただ、高機能自閉症とアスペルガー症候群には現行診断基準上の明確な差異があり、稿を進める前にこれらを同列に論じてよいかどうか最近の知見を振り返っておきたい。両者を語用能力について直接比較した研究は非常に少ない。Ghaziuddin & Gerstein(1996)は、発話中に衒学的なことばの占める割合で区別が可能だと示唆している。衒学的ことばとは、話し手が話題と会話の目的が必要とする以上の情報を伝えるもので、会話における関連性と量の期待に違反している。文構造に形式主義があり、語彙は博学のひけらかしがある。会話のターンは共同管理する対話への寄与というより、練習した独り言に似ている。構音は正確で抑揚はフォーマルである。こうしたことばをアスペルガー症候群事例の76%が示したのに対し、高機能自閉症では31%にとどまった。また、Ziatas et al(1998)は認識を表す語 think,know,guess”の受容と表出の両面で、自閉症児は言語水準でマッチしたアスペルガー症候群及び特異的言語障害、定型発達児に比べて劣ることを示した。Ziatas et al.(2003)はさらに、精神状態にかかわる断言的発話はアスペルガー症候群が自閉症よりも多く、その違いは「心の理論」課題の達成の差に関連するとしている。

これらに対しRamberg et al(1996)は、アスペルガー症候群は高機能自閉症に比べてFIQVIQが高いが、語用能力という点では両者には差がないとしている。また、Howlin2003)は18歳以上でPIQをマッチした両群を比較し、コミュニケーションを含む社会的転帰に差がないことをみいだした。両群共に言語能力は年齢水準より低く、アスペルガー症候群での早期言語発達が正常という仮定を疑わせるとしている。Howlin30弱の比較研究のレビューでは、社会的、情動的、精神医学的問題等について差があるかどうか一貫性のある結果がなかった。ただ、両群は最初に単語群と句を用いた年齢が異なり、アスペルガー症候群は高機能自閉症より異常に気づかれるのが遅かった。言語の面で4-5歳頃に見られた差は時間経過と共に減少する一方、学業成績では英国のAレベルは有意にアスペルガー症候群で多いという差が残っていた。これらから高機能自閉症は流暢な言語が身につくとアスペルガー症候群の発達経過の後を追って行くという関係をHowlinは示唆している。なお、これら両群の鑑別診断自体について未解決とする立場もある。Bartlett et al2005)はアスペルガー症候群の診断基準の“preserved language and coginition”の意味自体に問題があるとし、この症候群の幼児が言語を多様な機能で使えているか否かは不明であり、初期の言語の前会話的な伝達機能が表面的に適切に見えるだけで、発達するにつれてより複雑なコミュニケーションの要請が会話の困難を明らかにするに至ると示唆している。

ここではとりあえず異なる診断カテゴリーを厳密に区別せずに論を進めるが、決して筆者は高機能広汎性発達障害にともなうコミュニケーションの問題の個人差を無視するつもりはない。臨床的に経験されるのは、最終的に高機能広汎性発達障害と診断される事例が、一方では幼少期からの成長経過において言語とコミュニケーションの面で必ずしも一様ではないということがあり、他方では年長になるほど際立った差が認められなくなってくるという印象である。語用障害の発現にも発達水準や診断区分による違いが予想される。

 語用障害の定義 研究を展望する前にもう一つ検討しておかなければならないのは、そもそも語用障害とは何かという基本問題である。Craig (1995)は、「言語を使用する際に生じる臨床的に有意な問題」と言う一般的過ぎると思える定義を語用障害に与えている。そうせざるを得ない背景には、語用論とは何かという根本にまで遡る厄介な論争、すなわち語用論及びその障害の「モジュール」説と「機能」説との対立がある。Sperber & Wilson(2002) は「心の理論」モジュールと語用論は同等であると唱えている。この立場からは、体系的な語用規則の集合の存在が想定され、障害は語用規則の基礎成分に損傷が起きる結果として生じることになる。また語用障害をもつ個人は言語の他の面が残存しているか損傷があっても軽いということになる。議論としては特定の言語行為が存在するかしないか、あるいはコミュニケーションの基本戦略が符号化と解号というコードの処理か、それとも意図明示及び推論かといった事柄が話題となる。自閉症スペクトラムは「心の理論」の障害をもつとみなされ、かつ一見すると文法に問題がないように見えるので「モジュール」派に都合のよい存在となっている。

 ところが、知的障害や学習障害あるいは特異的言語障害など自閉症以外の発達障害においても、さらには失語症や認知症、健忘、右半球障害、外傷性脳損傷、統合失調症、聴覚障害など幅広い障害カテゴリーにおいても、自閉症スペクトラムにともなって生じる語用障害と同種の問題が多数見出される(Perkins,2003)。これは「機能」派に有利な証拠である。「機能」派は語用論を人同士の相互作用の産物、人同士の共同行為の機能として現れる(Clark,1996)とみなし、語用障害も「個人内及び個人間の諸領域(註。言語、心の理論、実行機能、感情機能、感覚運動機能などを含む)の補償的適応」あるいは「創発的産物」(Perkins,20022005)として定義する。論争の決着はついていない。筆者の立場は「機能」派である。この立場にたつのはは、同じような状況でも会話するたびに異なる語用障害に遭遇するといった、語用障害の偶発性、創発性を想定せざるを得ない経験を通じてである。

2.各種語用障害の個別的な検討

 特定個人の語用障害を包括的に把握することはきわめて難しい。語用論の臨床応用を提案したPrutting & Kirchner(1983)は、40種を超える語用論的行動の種目を一覧し、それぞれについてコード化のためのいくつかの下位分類を設けている。だがこれを単一の事例についてくまなく検索したような研究報告を筆者はまだ目にしていない。実際に行われてきた研究は、Pruttingらの作成したプールから特定の項目を引っ張り出し、それについて詳細な分析をほどこすというやり方をとっている。プールに含まれる語用行動をすべて検索するには気の遠くなるような労力が必要で、基礎研究としては重要だが、その実施はかなり厄介である。

こうした事情で事例の語用障害全体のプロフィールが描けない不満に応じようとしたのがBishop1998)のチェックリストである。ことばの了解可能性、不適切な開始、一貫性の欠如、常同的言語、文脈利用、ラポート、対人関係、興味の各領域にまたがって70項目の行動の有無を判断する。Bishopはこれを用いて、自閉症状を示す意味語用障害症候群(後に語用言語障害に改称)と純粋な意味語用障害症候群、特異的言語障害群の間の部分的な相互重複と差異を定量的に把握した。チェックリストはこうした研究目的にはマッチしているが、Prutting らの提案した詳細なスキームはカバーできておらず、どうしても大雑把にならざるをえないので、Bishop自身も詳細な会話分析との併用をすすめている。

 以下では特定の語用行動に焦点を絞って行われた研究についてみていくこととする。

言語行為 アスペルガー症候群の小学5年生男子は自分に対する相手の攻撃の中止を要請し「あんた誰?」とか「今日はこれぐらいにしてやる」といったため冗談と誤解された(大井,2004)。また高機能自閉症の6歳男児は「今日はおしまいなんだけど」ということばを繰り返し、本当に遊びを止める気があるのかどうか大人を戸惑わせた(大井,2001a)。小学3年生のアスペルガー症候群の女児は「誰かお水を運んできてくれるといいんだけどな」ということばを、まるで芝居のセリフの練習のように何度も繰り返して、いあわせた定型発達の6歳児を強く困惑させた(大井,2002)。ことばの選び方の不適切さをこうしたエピソードとして語ることはたやすい。しかし2歳ころに既に100種を超える異なる伝達意図を表すに至り(Ninio & Snow,1996)、さらに拡大洗練されて行く言語行為の多彩さを、高機能広汎性発達障害の人々がどう獲得しているのか組織だった検索は行われていない。

行われた研究は、早期のコミュニケーションに関するものである。Loveland et al(1988)は言語水準でマッチした自閉症児、発達性言語遅滞児、定型発達の2歳児について母子会話を比較し、自閉症児は無反応が多く、肯定、ターン・テーキングの音声、身振りが少なく、伝達を開始することが少ないことを示した。日本語について綿巻ら(1984)及び綿巻(1998)は、二語発話初期にある高機能自閉症事例の発話の半数が場面にあっているものの伝達意図を持たず、会話として機能したケースでは応答と質問がよく出現し、対人機能(呼びかけ、挨拶、注意喚起、態度や気持ちの表現)及び会話調整機能が欠けていることを指摘した。さらに綿巻(1997)は平均発話長でマッチしたダウン症児と比べ、共感獲得表現助詞「ね」が欠如し、日本語において社会対人関係を表現する機能を担う装置である終助詞一般に多様性が欠けていること、及び共同注意請求発話がほとんどないことを明らかにした。

こうした研究の状況からすると、文法と語彙がよく発達した事例でなぜ上記のような言語行為の不適切さが現れるのかの解明は今後の課題である。その際手がかりとなるのは、定型発達の言語獲得早期にあらわれる「定式性」(Locke,1995)である。これは最初エコラリアを生み出し、やがて入力される言語情報の文法的分析が可能となっても、上記のような「フォーミュラ」を生成すると想定できる。「定式性」は単一ターンを超えて談話の構造にまで至ることがDobbinson et al.(2003)によって示されている。高機能成人が異なる場面で同じ話題を、会話のターンをまたがりながら同一の統語構造で繰り返す例を彼らは見出した。

精神状態を示す語 Tager-Flusberg(1992)は正常か下正常域の知能の事例と言語水準でマッチしたダウン症児とを精神状態語の産出について比較した。欲求、知覚、情動を表す語は差がなかったが、 believe,figure,forget,guess,idea,mean,trick,sur-prise など認知的な精神状態を表す語はダウン症児のみが発話したことを見出した。またZiatas et al.(1998)は、“think,know,guessの受容と表出の両面で、自閉症児は言語水準でマッチしたアスペルガー症候群の子ども、特異的言語障害児、定型発達児より劣ることを示した。これらは、精神状態についての表象すなわち「心の理論」の獲得困難の言語獲得への直接的な反映を想定させる。

間接発話の理解 「おいおい、それは私の」ということばで、断りもなく携帯端末をいじくっていた知的には正常範囲にある小学5年生の高機能自閉症児を間接的に非難した担任の意図は伝わらなかった(Oi,2005)。間接発話の理解の失敗についてPaul & Cohen(1985)は、平均PIQ63の軽度遅滞自閉症成人がVIQでマッチした精神遅滞者に比べ著しく劣っていることを示した。言語行為の諸条件に言及することで間接的に伝えられるメッセージ受容の失敗は、発話の字義通りの解釈の結果、あるいは話し手の意図を想定することの困難、または発話の非言語要素や文脈情報利用の失敗など、異なった背景が想定できる。

質問と応答 Curcio & Paccia (1987) は反響言語のない軽度遅滞範囲の自閉症児について、大人の誘発発話にYes-No質問、概念的に単純な質問、話題に随伴した質問などの促進的要素が多ければ、子どもの適切な返事が増すことを指摘した。Hewitt(1998)は、境界線級の知能を持つ成人が、長文の質問、複数節からなる質問、推論を要する質問、間接的情報要請の質問の4つにおいて全般的な情報要請に比べて応答の失敗率が高いことを見出した。質問することについてTager-Flusberg(1994)は平均発話長が1歳水準から45歳水準までに至る過程を平均PIQ89の自閉症児とダウン症児とで擬似縦断的に比べ、情報要請、賛同要請、明確化要請の機能が前者で乏しいこと、また、情報要請ではダウン症児が大きくWh疑問文に依存しているのに対し自閉症児はYes-No疑問文への依存度が高く、賛同要請と明確化要請はほとんどYes-No疑問文に頼っていることを見出した。

日本語について綿巻(1997)が初期二語発話期の事例ではYes-No質問に対する「うん」が欠如しており、無応答も半数を超え、応答は大人のことばの反復であり、疑問詞質問には6割が無応答であることを見出した。大井(2001a)は、複文を話すことができYes-No質問に的確に応答している6歳児が、疑問詞質問には混乱した応答を返しており、その背景に大人の前提を理解しておらず、子どもの意図についての問合せに応じられない問題があること、また疑問詞質問をYes-No質問に変更すると応答が適切となることを示した。質問と応答にみられる問題は言語獲得の水準や質問形式の違いによって異なる現れ方をするようである。

会話のやり取り 発話が会話の原則(冗長を避け、情報的で、真実の、関連のあることを、丁寧にいう)に違反しているか否かの判断について、Surian et al.(1996)は平均12歳、言語精神年齢5歳の自閉症児が定型発達児や特異的言語障害児に劣ることを示した。特に「質」「関係」「丁寧さ」で大きな差が認められた。言語能力でマッチした自閉症児(平均12歳、平均IQ75)と遅滞児を比較したCapps et al.(1998)は、自閉症児が質問とコメントへの反応により多く失敗しており、新奇で関連のある寄与と個人的体験のナラティヴが少ないことを見出した。Adams et al. (2002) は、アスペルガー症候群の子どもが行為障害の子どもに比べ、社会情動的会話(情動の記述、交友などについて)では多く話す傾向がみられ、質問とコメントに対して問題のある応答が多いこと、会話全般にも不適切な発話、無応答が多いことを見出した。またアスペルガー症候群内ではこの傾向は社会情動的会話の方が身辺で起きた出来事についての会話に比べて強かった。

 先行発話に随伴する新情報を付加する程度についてPIQ平均89の自閉症児の母子会話を平均発話長とCA でマッチしたダウン症児と比べたTager-Flusberg & Anderson(1991)は、1年間の追跡データから自閉症児は平均発話長の拡大にもかかわらず随伴的談話に変化が見られず発話の非随伴性が高いことを示した。自閉症児が会話を維持するのはルーティンや再コード化、試験質問への単純な応答であった。これらから自閉症児が自分は母親にとって新知識の源泉となることを理解しておらず、人々は情報交換によってコミュニケートしているという認識が欠如していると彼らはみなしている。同様の指摘は、自閉症の成人女性の会話が反復性に特徴付けられ、直線的・前進的でないことを見出したDobbinson et al.(1998)によっても行われている。この女性との会話を広げるには相手側が次々と質問を繰り出す必要があった。

これらから、会話が参加者同士による既有知識と新情報から意味を前方視的に作り出す共同作業であるという考え(谷,1997)とは異なる考え方を自閉的な人々は持っている可能性が示唆される。彼らが聞き手の役割を他者から割り付けられていることに気づかなかったり、聞き手の注意を確保することに無頓着であったりする(大井,2001b)のも、会話というものについての考え方が定型的会話者とは異なっていることの証拠かもしれない。

ナラティヴ Loveland & Tunali(1993)は、暗誦、物語などの再話、逸話の語り、ゲームの説明、筋書きに基づく語りなど種々のナラティヴが10歳から27歳の自閉症またはアスペルガー症候群の個人でどのようになされているかを観察した。暗誦は行う時と場所の選択が不適切で、内容が高度に常同的であった。物語の再話は、内容が聞き手にはすぐ理解できず、後で自ら答えることを質問したりする混乱したものであった。逸話を構成するパーツ間の関連を聞き手に理解させることに失敗していた。後に述べる結束の装置の使用の問題がこれに関係していた。説明は、プロンプトを使うとすべての情報を言えるにもかかわらず自発的には10の情報のうち3しか伝えないで突然話題を変えるなどの語り方がみられた。筋書きの語りでは、クリスマスの一般的な過ごし方をたずねたにもかかわらず、その年のクリスマスの具体的なプランをいい、すぐに自分が興味を持っているホテル・チェーンの話題に話が移った。オリジナルがある物語の語りでは250種類のTom Jerryのマンガを記憶しており、筋書きの基本的なコンフリクトを話すにもかかわらず、コンフリクトがどう解決されたかを述べるところで語れなくなった。

これらは、充分な説明なしに聞き手が未知の物事や人物に言及するなどの聞き手の知識状態に関する理解の乏しさ、聞き手の身振りや表情によるフィードバックに注意を向けないなどの聞き手の感情状態の理解の乏しさ、及び登場人物の思考についての自覚、感情や動機についての理解不足を反映しているとみなされた。さらに、ジョークの何が面白いのか、虚構はノンフィクションとどう違うのかなどナラティヴが起きる社会文化的文脈を享受することの乏しさをも反映しているとLovelandらは示唆している。

Losh & Capps ( 2003)8歳から14歳のアスペルガー症候群の子どもたちが定型発達児に比べ物語絵本を語る文脈の遂行は良好だが、個人的体験のナラティヴに定型発達児がよく使う洗練された文法構造を組み込むことに困難があることを見出した。また個人ナラティヴを語り続けるのに大人のプロンプトを必要とした点も定型発達児と異なっていた。

日本語について長崎(2004)は、高機能自閉症の小学生が自己の経験を語る談話を定型発達の幼稚園児と比べ、自閉症児では他者の行為への言及や自己の心的状態への言及がなく、自他の心的状態への言及が「心の理論」課題の通過に左右されていることをみいだした。

ナラティヴにみられる諸問題はLovelandらのいうように、人間的出来事の意味理解(通常は幼児の社会的世界の自覚の一部)の困難が拡大した結果であり、文化の影響を受けることとナラティヴとの相互性、互いに発達を助け合う関係が自閉症では損傷されており、両方に欠陥が生じる結果となる可能性がある。

 人称・呼びかけ形式 先のTager-Flusberg(1994)の擬似縦断研究では人称代名詞の誤りも検討された。ダウン症児では“My can’t tell you”など格のマーキングの間違いが見られたのに対し、自閉症児では他者について話すのに”I am wearing glasses“と逆転した人称代名詞を用いることが総使用回数の13%みられた。日本語では人称代名詞の逆転の報告例はないが、日本語には敬語法として多数の人称代名詞・呼びかけ形式を細やかに使い分ける習慣があり、この面で困難が生じることが想定できる。実際筆者は父親の電話に「母はただいま留守にしております」と応じる事例、自分の母親に家庭で来客があったときに「山田(仮名)お母さん」とPTA用語で呼びかける事例を経験している。

 言語の推論 意味を理解するのに推論を要する言語について、Dennis et al.(2001)VIQ70以上の10歳程度の高機能自閉症児を定型発達児と比べた。自閉症児は精神状態動詞から所与・前提知識を推論可能だったが、精神状態動詞から文脈的含意を推論できなかった。また社会的スクリプトについての推論及び隠喩の理解と表出ができなかった。これらの推論は意味を洗練し互いに意図を伝えあうコミュニケーションの基礎をなすものである。前提はわかるが含意が推論できないのは、 新しい談話情報の扱いが困難という報告(Capps et al., 1998)と一致する。語用論的推論がマスターできなければ社会的認知の発達に影響する。健常児は、推論を自己の内的精神状態のモニター、変形、組織化、解釈に利用する。また、精神状態動詞で精神世界の諸側面をラベルすることで心と思考について意識化している。精神状態語の理解は「心の理論」の発達にも関係する。社会的スクリプト推論の失敗は社会性の問題と対応している。自閉症児も何らかの推論は行うが、コミュニケーション成功の基礎である聞き手にとっての意味を洗練したり意図の意識を示したりする推論にはしばしば失敗する。彼らは思考についての文脈的な推論ができないように見える。

指示と結束 Baltaxe & D’Anigola(1996)は、ハリデーらの談話結束性分析により人称代名詞、指示詞、指示の比較結束タイの正誤について、言語年齢でマッチした自閉症児を特異的言語障害及び定型発達の子どもと比べた。自閉症は他の2群より不成功が多く、誤りのタイプにも質的な違いがみられた。人称代名詞のエラーが有意に多く、一人称と三人称、比較級を使わなかった。さらに結束タイを用いず、先行談話内の指示対象を特定しないことは自閉症のみでみられた。Fine et al. (1994) は高機能自閉症とアスペルガー症候群における結束に違いのあることを見出した。高機能自閉症は談話の先行部分に対する言及が少なく、“the queen”などの外的(物理的、文化的)環境への言及が多い。これに対しアスペルガー症候群は先行談話に言及しはするものの、不明確で解釈が困難な述べ方、例えば、“My father and brother are both tall. He likes base ball”の“He”が誰をさすのかわからないといった問題がみられた。指示は日本語語用論研究でも検討が進んでいる領域の一つであり(加藤,2004)、基礎研究の臨床的な視点からの活用が期待できる。

 ユーモア・しゃれ Van Bourgondien & Mesibov(1987)は知的に正常範囲にある自閉症の成人が口にしたジョークを分析し、その多くが就学前にみられるなぞなぞや、小学生レベルの音韻や語彙による遊びであったこと、ただし一部には通常の成人と同様のジョークもあったこと、それらを彼らが楽しんでいることを見出した。Werth et al. (2001) は、サバン的なユーモアの創造性を示した29歳の高機能自閉症女性のだじゃれ、冗談、皮肉、あてこすり、しゃれなどを検討した。非凡なユーモア能力にもかかわらず自閉症の特徴としてユーモアの形式が慣習的で筋書き的構造をもっていること、落ちの必要を意識しないこと(例“A broken seatbelt that got mended!)、ユーモアを共有の楽しみを増すのでなく自分向けに言う点、ユーモアが明らかに不適当な状況(他者の悲嘆や怒り)ではそれをやめるが、非言語キューが目立たないときにはユーモアをいい、いやがっている相手に冗談を言おうとする、ユーモアへの否定的反応(いぶかり、飽き)に対応できない、何かが面白ければ限りなくその冗談を続けてよいと信じているかのようである、などの特徴を指摘している。

3.語用障害の背景

 前項で見渡した各種の語用障害が生じる背景については以下に述べるとおり諸説がある。「心の理論」障害説がもっともよく引き合いに出され、それにからめて「関連性」理論も援用される。ついで「弱い中枢的統合」説、「実行機能」障害説が続く。また感情障害説と「心の理論」障害説の対立を乗り越える「全般的な記号欠陥説」、その他に「社会的アフォーダンス」説、「社会的知覚」説、さらには右半球障害説もある。指示・結束の障害を説明するのにうまくあてはまる認知科学的概念として筆者は「メンタル・スペース」理論も挙げておきたい。自閉的であるために獲得が妨げられる周囲の世界に関する知識の乏しさも語用論の発達には影響する可能性がある。語用障害と脳機能との直接の関連を検討する神経語用論研究は高機能広汎性発達障害についてはまだ手がついていない。このレベルでブレークスルーが生じれば、諸説の整理統合への途が開かれるであろう。以下に各説を示す。

 心の理論と関連性 語信念課題の達成に代表される「心の理論」の欠如によって語用障害を説明する証拠がいくつか示されている。Happé1993,1995)は「心の理論」にあらわれるメタ表象能力の発達水準が伝達能力の水準ときれいな対応を示すことから、スペルベル& ウィルソン(1993)の関連性理論が自閉的コミュニケーションによって検証可能であるとしている。すなわち第一次水準の「心の理論」をもたない事例は直喩を理解できても隠喩が理解できず、第一次水準の「心の理論」をもつが第二次水準のそれをもたない事例は、隠喩の理解はできるが皮肉の理解及び皮肉と嘘の区別ができず、第二次水準の「心の理論」を達成した事例だけが皮肉を理解しそれと嘘とを区別することができた。ハッペ(1996)は、スペルベルとウィルソンのいうコードのコミュニケーションは第一次の「心の理論」をもたなくても可能だが、それなしでは話し手の意図を推定する意図明示的-推論的コミュニケーションは不可能であること、また第二次の「心の理論」をもたなければこのコミュニケーションに不全が生じ、反語的表現が理解できなくなるなどの問題をもつことになるとし、こうした枠組みで高機能自閉症やアスペルガー症候群の個人差を説明できるとした。

先にあげた“know,think,guess”の区別ができるか否か(Ziatas et al.,1998)をも「心の理論」の達成は左右しており、また、会話の原則の違反を理解できるかどうか(Surian et al.,1996)にも影響を与えている。先のCapps et al.(1998)は「心の理論」の達成が随伴的関連的談話に特に結びついていることを示した。

 Tager-Flusberg (1993)は「心の理論」の早期の先駆体とみなされる共同注意まで遡って語用障害の説明を試みた。前言語コミュニケーションの基本類型の1つである原平叙の欠如、具体的には共同注意の一部としての指差しが見られないことは、コミュニケーションが情報の交換であるということの理解の欠如を意味しており、ことばが話せてもすぐには機能的に使えない早期の状態像や後に生じる語用の欠陥につながると彼女は指摘している。また、早期の言語にみられる代名詞の逆転や質問における形式-機能のマッチングの誤りは、話し手-聞き手役割を完全に見出していないという共通の源に基づいており、それは早期からみられる個人ごとに概念的視点が異なることの理解の障害からもたらされたものとみなせるとする。

中枢的統合 情報の小片に注意するが全体的な一貫したパタンに注意ができない状態をフリス(1991)は「中枢的統合」が弱いとみなす。全体よりも部分しか見ないと、ことばの解釈において文脈情報を利用できなくなり、その結果、同型異義語や曖昧文の理解において最も一般的な意味を選択してしまうことになる(例“He bought some glasses”がガラスを買ったことになる。Jollife & Baron-cohen,1999a)。Jollife & Baron-Cohen(1999b)は平均FIQ100以上の事例について、同型異義語の発音を文脈に合わせて適切にすることが自閉症及びアスペルガー症候群において少なく、状況の文との橋渡しを用いて結末の文の意味を推論することが、自閉症ではアスペルガー症候群及び定型発達群に比べて少ないこと、さらに語彙的又は統語的に曖昧なことばを解釈する際に文脈を利用することが自閉症及びアスペルガー症候群で少ないことを見出した。「ボイラー小屋はすごくうるさかった。ファンの騒音がチームの邪魔をした」を冷却機のファンでなくフットボールのファンがうるさすぎて邪魔をしたと理解するなどである。これらからJollifeらは、短期記憶または作動記憶の中で言語情報間に文脈的に有意味な結合を作り出す「局所統合」に問題があると示唆し、それがコミュニケーション能力を阻害し語用論的側面に対する感度を下げてしまうと説明している。

Noens et al. (2004) は中枢的統合が言語とコミュニケ-ションの両面に問題を生じさせ、コミュニケーションの全モードの統合的な知覚が自発的にできなくなり、“sense-making”がバラバラかつ連想的、字義的になされるため、慣用句を理解できなくなったり、次のような新造語を作り出したりすることになるとしている。ことばの面で有能なあるオランダ人青年は髭剃りのジェルのことを“tankshon”という。これは“gel”を“Shell”(オランダの石油会社)と連合させ、さらに“tankstation”(オランダ語で言うガソリンスタンド)と結びつけた結果と推定された。

Martin & McDonald(2004)は、アスペルガー症候群について反語などの非字義的言語装置の処理能力と、視空間的な中枢的統語課題及び「心の理論」課題の達成との関連を検討したところ、他者の信念状態の理解能力が反語的言語の理解に決定的で中枢的統合は関連がないという結果を得て、統合の課題が聴覚言語でなく視空間的なものだったからかもしれないとしている。

実行機能 Ozonoff et al.(1991)は感情認知や「心の理論」とは別の、柔軟な行為系列の方略を計画し、実行に際して無関係反応を抑制する能力としての実行機能のみが、自閉症群と非自閉症群とを分ける要因であるとした。Bishop & Norbury(2005)は、実行機能の指標として思考の流暢性課題を用い、自閉症の徴候を部分的にあわせもち、過剰情報または過少情報の提供、不適切開始、会話文脈の考慮の失敗、過度の字義的解釈、曖昧語の意味の取り違え、話題の浮遊などを示す語用言語障害(彼らは以前これを意味語用障害と呼んでいた)症候群と、高機能自閉症、特異的言語障害及び定型発達の4群のコミュニケーションとの関連を調べた。その結果、高機能自閉症群と語用言語障害群はいずれも思考の流暢さに問題があり、かつ自閉的コミュニケーションの程度と思考の流暢さに相関がみられたとしている。高機能事例ではないが、McEvoy et al.(1993)は遅れがある自閉症児が言語水準でマッチした遅滞児と健常児に比べて実行機能課題で固執的な反応が多いこと、共同注意及び社会的相互作用と実行機能の間に有意な相関のあることを見出し、実行機能が社会認知的課題の達成の基礎にあると示唆している。

 Martin & McDonald(2003)は、「心の理論」と「弱い中枢的統合」及び実行機能のそれぞれの語用障害との関連を検討した。「心の理論」の障害は高次の水準で意識的に行われる特に社会情動領域にかかわるコミュニケーション処理をさまたげ、話し手の視点を利用できなくする。「弱い中枢的統合」は低次のコミュニケーション処理に影響し、文脈を利用して非字義的意味を導き出すのを困難にする。さらに実行機能障害は高次の水準で意識的に起きるコミュニケーション処理に影響し、硬すぎ具体的過ぎる情報処理に偏るため皮肉を理解できなくなったりする。ただし、皮肉を理解できないことは文脈利用の困難や他者視点取得の困難にも影響を受けるとし、同じ語用障害が異なるメカニズムの輻輳によって生じるという考えを提案している。

 全般的な記号論の欠陥 この説は非常に高機能な自閉症のグループにみられたナラティヴの特性からBruner & Feldman(1993)によって提案されたものである。15才の高機能自閉症の少年たちに民話を語り聞かせたところ、彼らは話に登場する騙しやトリックとそれらの効果をも理解した。語りの途中の「何が起きると思う?」「どうしてそう考えたの?」などの質問にも的確に答えられた。問題はその先にあった。彼らに聞いたばかりの話をもう一度自分で語るよう求めると、多くの出来事を順序良く語れたが、騙しやトリックは消えてしまい、筋書きの動機付けの重要さに触れなかった。つまり単なる出来事の順序は報告できたが「物語る」ことはできなかった。語るのでなく記述しようとしているにすぎず、記号的様式に知識が符号化されて保持されていないと考えられた。自閉症児では早期から生活体験をナラティヴに再加工する衝動が弱いか欠如しており、日常経験を日常会話に組み込めるような物語に符号化できないことが、彼らのコミュニケーションの問題を生み出す。それをやわらげているのが「計算論的な」推測、つまり手間をかけて他者の意図を計算する手続きである。高機能自閉症、アスペルガー症候群の人々の「奇妙さ」は、他者の感情や考えや信念を認識することなく、因果関係の計算問題としてそれらを解こうとしている点にある。そして通常は人同士が伝達可能な慣習的意味を作り出すよう文化が組織するナラティヴの構造を、組織化できないということが自閉症者の感情の障害や「心の理論」の欠陥につながっているというのがBrunerらの考えである。

 その他の諸説 社会的知覚の障害がアスペルガー症候群のコミュニケーション問題の基底にあるとするのはKoning & Magill-Evans(2001)である。社会的場面のビデオ記録を、ことばの内容が聞こえないよう声調と音律だけを残して聞かせ、何が起きているか、登場人物がどう感じているか、どうしてそうわかったかを問い、回答を情緒得点および非言語的手がかり得点(表情・身体・状況・音声)で評価したところ、アスペルガー症候群の少年たちは年齢とIQでマッチした定型発達群に比べて有意に成績が劣っていた。これとよく似た人間的環境を知覚することの失敗として説明するLoveland(1991)は、それを社会的アフォーダンスの障害と呼ぶ。人形劇を見てもそれを出来事の再現としてみず、おもちゃの物理的特徴のアフォーダンスを利用する。活動や事物、人物、シンボルについてもその一般的意味を取り込めず、特定のカップでしかソーダを飲まないなど特異なアフォーダンスを選択してしまう。この他、右半球脳血管障害患者の示すユーモア、推論、間接要請の理解の障害、曖昧な質問の解釈における過度の非字義的意味への偏りなどの困難との類似性から、右半球障害として捉えようとする立場もある(Ozonoff & Miller,1996)。

4.支援 

 Klin & Volkmar(2000)が高機能広汎性発達障害にともなう語用障害へのアプローチの課題を的確に整理している。1つは、他者とのより柔軟な相互作用、たとえば交渉する、仲介する、説得する、討論する、反論するなどの技能の学習を助けることである。2つには、他者の話題に反応しそれを広げるようにかかわる、適切に話題を変更したり終了したりするなどの話題管理の技能を身につけることである。3つめには、他者の視線や身振り、音声の大きさや調子、姿勢や距離などの非言語的な手がかりの知覚技能を改善することである。第4として、各々の場面が社会的に期待している事柄、誰とどこでかかわっているかについての意味を理解することがある。最後に5番目として、意味を推論したり、他者の行動を予測したり、動機を説明したりするための精神状態言語を操る知識の習得がある。

 語用障害の改善にとりくむための方法としては、ソーシャル・ストーリー、ソーシャル・スキル・トレーニング、「心の理論」の教育、語用障害ゆえにこそとりくまれる語用論的アプローチがある。ここでは最初の3つについて手短に眺めたのち、筆者自身がその展開を期待している語用論的アプローチについて詳しく論じたい。このアプローチはさらに、会話分析など詳細なコミュニケーション・プロセスの分析に基づく個別対応的アプローチと、社会-語用論的グループ指導と称すべきアプローチの2つに区分できる。

 ソーシャル・ストーリー グレイ & ホワイト(2005)によって提唱されているこのアプローチの原則には、「子どもにとって出来事が目の前で起こっているように」「事実説明文、他者心理文、常識確認文」などを配分し、「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どうして」がはっきりわかるように盛り込む、といった事柄が含まれる。これらは語用論でいう話し手の意図や前提、文脈情報、世界知識などを子どもに文字として見える形で提示する試みと言い換えられる。こうした支援は高機能広汎性発達障害をもつ個人に役立つものと思われるが、効果研究や技法についての検討は実践の広がりに比べあまり取り組まれてきていない。Sansosti et al. (2004) は単一事例実験デザインで行われた10の指導研究をレビューし、明確な効果を示したのが2つしかなかったとしている。それは、昼食時間の独り言など不適切な相互作用行動を減少させたものと、注意の確保、コメントの開始、要求の開始、随伴的応答を増加させたものとである。

Gray(1998)は、ソーシャル・ストーリーの変種というべき漫画による会話を試みている。これは書字言語とイラスト、シンボル、色で互いにコミュニケートする視覚依存方略を活用するものである。「あなたは何を言ったか、それを言ったとき何を考えたか」「相手は何を言ったか、それを言ったとき何を考えたか?」を書き込む。この漫画による会話は発話の背後にある意図や前提を明示する効果を持つ。GrayがいうT.Grandinなどの高機能自閉症者に見られる視覚依存へのマッチ以上の意味がこの方法にはある。

 ソーシャル・スキル・トレーニング これにはロールプレイやビデオによるフィードバック、実際の仲間活動の体験の提供など多様な技法が含まれる。Marriage et al. (1995) 8歳から12歳の子どもを対象に、グループで毎週1回、挨拶など単純なスキルから、特定の聞き手に充分話したかどうかの判断など複雑なスキルまでを、ロールプレイ、ビデオ記録の視聴 、プロンプトカードの使用、映画の視聴、ゲームなどを通じて訓練した。またショウアンドテル、共同のクッキングを実施し、さらに家庭での宿題も与えた。仲間や大人との会話についてのトレーニング前後の親による評定には差がなかったが、アイコンタクトの改善、感情の言語化、他者とのかかわりの開始、他者とその興味の自覚の点で親から改善のコメントがあった。セッションで認められた変化(他児に近づく)は学校に般化していない。

Howlin & Yates(1999)19歳から44歳で平均PIQ109の成人のグループ活動を月1回実施した。社会的困難の理解を図り適切な対応を促すことと会話技能の改善に焦点がおかれた。ロールプレイ、チーム活動、構造化されたゲーム、セッションのビデオのフィードバックが用いられ、会話の開始と維持、言われたことへの適切な応答、反復常同発言の回避、質問に関連して答えること、不適切コメントの回避、身体言語、距離、アイコンタクト、ターン・テーキング、断行性、感情表現などが課題とされた。パーティ・シナリオでは会話の開始と維持が有意に改善し、ジョブ面接シナリオでは適切応答が増し不適切応答が減った。その結果よりよい仕事に就き、家庭から自立する事例もあらわれた。見知らぬ若い女性に声をかける行動は続いており、また貸した金を返してもらえないなど、コミュニケーションの断行性の問題は持続した。

Barnhill et al. (2002) 10代の青少年を対象に声質の違い、互いの発話の比率、非言語音声パタンの理解、強調の意味の理解などに焦点をおくグループ活動を、実演やビデオをみせるなどで実施した。グループ活動内では若干の改善があったが般化は見出せなかった。Barry et al(2003)は、6歳から9歳のVIQ100前後の自閉症児に、挨拶、会話、プレイスキルを教えるグループを8回実施した。セッションには定型発達の仲間も参加し、彼らには自閉症児とかかわる方法が教えられた。挨拶と遊びには効果があったが会話には効果がなかった。親の報告では挨拶だけが改善した。クリニック外には般化しなかった。やや変り種で健常仲間をトレイナーにすることを試みたのはOke & Schreibman(1990)である。5歳半の事例を対象に仲間への対人的開始の訓練とそのビデオによるフィードバックを行った結果、社会的相互作用の拡大がみられた。

「心の理論」を教える Ozonoff & Miller (1995)相互作用と会話スキルを教え、かつ「心の理論」の原理も教えた。「心の理論」課題の達成は改善したが、社会的能力についての親と教師の評価は変わらなかった。Hadwin et al. (1997) は情緒の理解、信念の理解に加えて振り遊びの訓練と会話の仕方の訓練を行った。自己紹介のしかた(接近、こんにちは、笑う、相手のことばを聞く、応答)、ターン・テーキング(注意、相手の休止まで待つ、次に何か言う)、傾聴(静かにする、聞き続ける、相手を見る)、話題維持(聞く、相手の言ったことを考える、同じことについて言う)、適切な話題転換(聞く、相手の休止まで待つ、何か他のことを話そう)が取り上げられた。指導終了後の評価では、情緒と信念理解のテストを通過するようになったが、社会的コミュニケーションスキルに改善がみられなかった。ただし両親の報告では相手が話している時に注意して聞く、相手を見る、目を見て話す、尋ねたことに返事する、静かに座っているなどの改善があった。ただし、子どもたちは他者の精神状態に照らし合わすことがないまま会話の一連の規則を学び、適用した可能性が指摘されている。

これらと逆方向、すなわち会話の仕方を教えれば「心の理論」が改善するかどうかを検討したのはChin & Bernard-Opitz(2000)である。会話の開始、ターン・テーキング、傾聴、話題維持、話題変更について教えた結果、共有された興味の範囲の拡大、会話の文脈に適切な反応の増加が見られたが「心の理論」の誤信念課題の成績は変わらなかった。

 個別的な語用論的アプローチ Howlin & Rutter (1989) は、PIQは正常で言語年齢が2歳後半の6歳の自閉症児たちを対象に母親の言語誘発発話(質問、模倣、拡充など)を増やし言語志向でない発話(命令、陳述など)を減らす介入を行ったところ、子どもの社会的言語が増大した。Loveland & Tunali(1991)は、平均16歳で7歳程度の言語能力を持つ自閉症児に社会的なスクリプトを利用する際のモデリングの効果を検証した。茶会の状況で「財布を盗られた」などの共感的又は援助的な反応が期待される気の毒な話をきかせ、関連性のある示唆や共感的コメントのモデリングを試みたところ、一部の自閉症児でそうしたコメントがみられるようになった。

 これら応用行動分析によるアプローチとは別の会話分析アプローチを試みたのがWilcox & Bevan(2000)である。彼らは自閉症と意味語用障害の境界例と思われる5歳の男児について大人や仲間との会話を分析し、注意取得装置を使わないことが多い、開始の際に聞き手を特定しない、質問で開始しても答えは知っている、要求に普通でない表現を用いる(採点をしてほしくて“I done good work”という)、相手の発話に気づかない、相手が触ったり呼名したりしないと応じない、などの特徴を見出した。この結果に基づいて要求の際に極性疑問文を用い、相手を呼名し、“please”ということ、加えて、挨拶や別れのことば、相手の笑いへの応答を教えたところ、相手の話しかけに対する無応答が著しく減少した。

 異色のアプローチがRajendran & Mitchell(2000)によって試みられている。彼らはコンピュータを用いたコミュニケーションのトレーニングを実施した。二人の参加者がロールプレイするコマワリ漫画をコンピュータ上で経験させる。ことばのバブルと思考のバブルを交互に画面上に出すバブル・ダイアローグ(吹き出し会話)は、ユーザーにことば及びことばとは別の思考内容について同時に考える機会を与える。20代前半のアスペルガー症候群の学生に、語信念課題を参考とする6つのバブル・ダイアローグ・セッションが行われた。対人的理解に改善はなかったが、実行機能の得点は上昇した。バブル・ダイアローグでは思考が公開され互いに見える形になる。ユーザーが正しくプレイしたとすれば、この能力は抑制や衝動統制を必要とする。次のダイアローグについても考える。実行過程の体験となり、カード分類テストの固執性をへらしたのではないかと考えられた。

 日本語については、佐竹・小林(1987)が知的に境界線ないし軽度の遅れのある5歳から12歳の自閉症児が終助詞をほとんど使わないことから、疑問を表現する「の」、報告の「よ」、同意を求める「ね」を模倣と強化の手続きによって教えた。これらの終助詞使用が増加し日常生活にも般化するという結果を得た。

会話分析と類似したINREALのビデオテープ・アナリシスを用いたアプローチが高橋(1997)及び大井・中川(2004)によって行われている。前者は、FIQ141の高機能自閉症の男児について、7歳から8歳にかけて継続的に他者との会話を分析し、大人の限定質問による援助を通じて子どもの意図の明確化や他者の意図確認の方法への気づきを促し成果をあげている。後者は、発達障害をもつ子どもの母親の自助グループ内で相互に子どもとの会話のビデオを提供し分析しあうという手順がとられた。高機能自閉症の小学1年生の男児の母親は子どもの謎めいた言葉遣いの背後にある伝達意図を理解し、子どもの発話に関連のある応答ができるようになった。

社会-語用論的グループ指導 これは、高機能広汎性発達障害事例のグループを組織し、買い物、ゲーム、討論会、旅行、クッキング、パーティ、何らかの労役、自由遊びなど種々の社会的状況を作り出し、そこで生じる会話にリーダー役の大人が何らかの介入を試みるというスタイルのアプローチに筆者が仮につけた名称である。必ずしも定型発達児・者を排除するものではないが、高機能広汎性発達障害事例に慣れていない大人は語用障害に戸惑ったり過敏に反応しすぎたりして学習機会を確保できないようである。定型発達児も同様で、高機能広汎性発達障害事例と興味の対象を共有できるタイプの子どもばかりとは限らない。ただしそういう仲間に恵まれた事例は友人関係を通じて語用論について学べる(大井、2004)。

大井(2000a)は、数名の高機能事例からなるグループを月に2回約1年間実施した経過を検討し、作業中に比較的自由な会話が可能な料理場面の反復体験が、話題の開始・維持、開始発話の伝達機能の拡大、聞き手の特定などの改善につながること、限定した相互作用が反復されるフリー・マーケット場面では<合意の要請-参加者の同意の確保-合意形成のマーキング>というプロセスを遂行するための、多様な相互作用行為を互いに協調的に用いることを促したという結果を得た。

高機能広汎性発達障害事例同士の相互作用には定型発達児・者を相手とするそれとは異なるユニークな面がある。特有の偏った話題を共有し合えることもあるが、類似した語用障害を抱えているため学習課題がより鮮明となりやすい。たとえば話し手-聞き手役割の割り当てでは、聞き手の注意取得に配慮しない話し手が、自己が潜在的に聞き手役割を割り当てられる可能性をほとんど考えていない相手に話しかけて、会話を成立させる努力を相互が意識的に行う必要のある機会が生じる。

高機能広汎性発達障害の事例同士のコミュニケーションには別のメリットもあるらしい。大井(2000b)は、高機能広汎性発達障害をもつ6歳児の定型発達の同級生とのコミュニケーションを、高機能広汎性発達障害の5歳児とのコミュニケーションと比較した結果、前者ではかなりの割合で話しかけても同級生の注意をえられず、また同級生の発話に関連のある応答ができないでいるのに対し、後者では互いに応答しあう率が高く、内容が玩具の占有権や使い方をめぐるいざこざ及びそれらの解決など幼い水準にはあるものの、発話間の関連もよく保たれているという違いがあることを見出した。高橋(2005)は小2から中1までの高機能広汎性発達障害児10名のグループ活動を組織し、相互交渉が生じやすい活動の機会を提供し、特徴的な場面の詳細なビデオテープ・アナリシスを行い、語用論の面での大人の援助の妥当性を検証している。たとえば聞き手を特定した発話を促す大人の援助(「そのマジック誰のかな?」など)で「B君、これかりますよ」という呼びかけつきの話しかけを促したり、喧嘩腰の物言いに対してより適切な発話モデル(「僕はじゃんけんが嫌いですっていってみたら」)を示すことで、「あのう、一応じゃんけんが弱いから」という体面を傷つけない発話を導いたりしている。全体として多かった援助は、誰に向かって述べているかを明確化するものと、他者心情に配慮した問題解決方法を促すものであった。

 こうした試みと似た点を持つ「語用論グループ」の実施をアスペルガー症候群について提唱しているAbele & Grenier (2005)は、グループを構成する意義をつぎのように説いている。すなわち、社会的な慣習について「淡々」としていることは、物事をあからさまにいわない普通の環境で育った人々には難しいが、コミュニケーションがシンプルで直截であればあるほどメッセージがクリアに伝わり、こうしたやり方がアスペルガー症候群の人との生活や教示では鍵となる。通常の環境ではアスペルガー症候群の人々に周囲は「淡々」とする以前にいらいらさせられてしまい、彼らは不寛容、叱責、苛立ちを受け続けている。「語用論グループ」では「淡々」とした雰囲気を作り出し、静かに、直接的に、あからさまに話すことがリーダーの仕事であり、学習はより特殊で具体的であればあるほどよい。たとえば 若い成人のグループで、会話時の身体距離はことばで具体的に言えるが、物差しではかり比べるともっとわかりよい。腕の長さが会話時の距離としてよいなど、年少者では手足を使ってはかるといった例があげられている。

5.今後の課題

本稿では語用障害をひとつの全体として描き出すことはできず、その各成分のモザイクを書いてみるしかすべはない。しかしこの不完全なモザイクですら、本当に個々の事例が体験する語用障害の全体像に的確にあてはまっているのかどうかは心もとない。筆者が体験するのは同一事例でも場面状況が違えば驚くほどもっともらしく振舞えるのに、その直後の別の場面では致命的な失敗を犯しているといったような、語用障害の浮動性である。また、こうした個人内の浮動性に加えて、詳しく見ていけば個々の語用障害の発現に個人の発達水準や診断区分による違いが生じていることも想定できる。しかし今のところ先に示したような各種の語用障害が、各々の事例で、いつ頃どの程度の頻度で、いかなる組み合わせであらわれてくるのかについて包括的に検討した研究はない。

語用障害が一人一人の中でどのように現れてくるのか、その本態を把握するためには、単一事例の会話資料を日常コミュニケーションの多様なジャンルと状況のすべてから得て、徹底して検索することを反復する必要があろう。Oi(2005)が示したように、ごく短い会話のやり取りにさえ多種の語用障害が出現しているからである。

こうした基礎研究を一方で進めて語用障害の基本的性格に迫りながら、そこまでの労苦を必要としないより手軽な評価ツールを開発することも、語用障害の全体像を踏まえた臨床実践を効率的にすすめていくためには必要となる。先にあげたBishopのチェックリストはその候補であるが、日本語語用論研究を踏まえたバージョンが作られるのが望ましい。ただしBishop自身が勧めている様に、チェックリストを利用する場合も会話の詳細な分析によってその個人や当該会話に固有な語用障害を細部にわたって検討することが重要である。

語用障害の特徴に関する研究課題としては、ようやく始まっている日本語語用論研究の展開(たとえば加藤2003による連用・連体修飾の研究など)を考慮にいれることもあげられる。高機能広汎性発達障害の個人が日本語使用のどういう点で困難を体験しているかを理解するには、言語使用エピソードの素朴な記載にとどまらず、日本語語用論の理論に即した精緻な分析がほどこされるべきである。

語用障害の背景基盤の解明についてもさらなる進展が望まれる。「心の理論」など各種の心理学的構成概念と語用障害との関連はもちろん、語用論とその障害の基底にある神経心理学的構造にせまる神経語用論研究の展開に期待するところは大きい。脳機能の非侵襲計測技術が多様化・高度化しつつある今日、日常会話中に脳がどのように振舞っているかをとらえうる可能性も示唆されている。語用障害の多様さ、創発性、浮動性、あるいは背景について多種の理論が並立する状況などを、コミュニケーションを支配する少数の基本原理のもとに統一的に説明できる日がいずれやってくるものと期待したい。

 最後に語用障害に対する支援のプログラムの開発について触れておきたい。個々の語用論的知識を当事者に暗記してもらうことはさほど困難ではない。覚えるのに役立ちそうな教材も手近にある。たとえば小学生向けのことわざやジョークの解説本などは高機能広汎性発達障害の子どもたちが好んで読むものの一つである。彼らが自分でみつけた社会とコミュニケーションについてのそうした学習法を尊重する必要があるのはいうまでもない。しかし同時に筆者が経験するのは、それらから得た情報を相当に持ちながら、日常コミュニケーションにおける実用的伝達技能として生かせないと思える事例が目立つことである。解説本で覚えた知識も適用する練習の場なしでは、単なるクイズ上手をつくるに終る。この点で、学習の標的技能を少数の伝達スキルに絞り込むことになるソーシャル・スキル・トレーニングやソーシャル・ストーリーによる臨床実践の取り組み方には慎重な配慮が求められる。

語用論の学習を援助する上で欠かせない要素は、その事例が所属するコミュニティ(家庭、仲間、教室、職場、地域、メディアなど)で繰り広げられるコミュニケーションの局所局所において作用しているローカルな語用論について幅広く知る、実際のコミュニケーション体験を多様かつきめ細かに組織することである。支援はあくまで会話の場面や参加者の違いに応じて個別的でありかつ柔軟なものでなければならない。語用障害の創発的性質がこうした対応のあり方を求めると筆者は考える。

創発的性質を視野に入れた支援に取り組む際に考慮すべきは個々の語用障害の補償である。6歳から15歳までの平均FIQ104の高機能自閉症またはアスペルガー症候群の子ども10名との会話について、その崩壊を親や保護者などの大人が報告した場面に焦点をあててビデオテープ・アナリシスを行ったOi(2005)は、崩壊の引き金となった子どもの語用障害に対して大人が補償を試みているケースが大半であったものの、崩壊をスキップし語用障害に対策を施さないままというケースも少なからずあったことを示した。加えて、ビデオテープ・アナリシスを反復すると語用障害の補償に成功する割合が高まり、スキップがなくなることを見出した。語用障害の補償は、コミュニケーションの規則や習慣について子どもが学ぶことにつながる可能性を持っており(大井、2003)、家族や担任、仲間や同僚など高機能広汎性発達障害事例と密接な関係をもつ人たちのコミュニケーションをこの観点から検討することが検討課題となろう。語用障害を補償するためには、当事者や関係者がコミュニケーションにおいて何をどのような手順をで行おうとしており、そのプロセスのどこで齟齬を来たしているかを見渡せる、会話に関する地図をもつ登山ガイドのような役割を果たすことが支援者に求められる。そのように関係者をトレーニングする可能性についての検討も必要である。

コンピュータに強い興味を示すという高機能事例の特徴も語用障害の補償に役立つ可能性がある。電子メールやチャットはコミュニケーションの体験を通常の話し言葉のやり取りに比べてゆっくりにし、ことばとその背景について考える機会を参加者に与える。また彼らが不得手とする非言語情報や文脈情報への依存度は相対的に低く、学習しやすさを増すと期待される。

こうした高機能事例の長所も生かしながら、多様な対人的活動の中で、熟達した支援者の助けを得ながら語用論のさまざまな領域について多角的に学べる、豊かなコミュニケーション環境を提供する包括的プログラムの整備が望まれる。

 

文献

Abele, E. & Grenier, D.:” The language of social communication: Ruuning pragmatic groups in schools and clinical settings” Asperger’s Syndrome: Interviening in schools, clinics, and communities. Baker, L.J. & Welkowitz, L.A. (Eds.), Mahwah, Lawrence Erlbaum Associates Publishers. 2005, 217-239

Baltaxe, C.A.M.: Pragmatic Deficits in the language of autistic adolescents. J. Pediat.

Psychol, 2(4), 176-180(1977)

Baltaxe, C.A.M: Use of contrastive stress in normal, aphasic, and autistic childrenJ.Speech Hear. Res, 27(1), 97-105. (1984)

Baltaxe, C.A.M. & D’Anigola, N.: Referencing skils in children with autism and specific language impairment. Euro. J. Disord. Commun. 31,245-258(1996)

Barnhill, G P., Cook, K T., Tebbenkamp, K., & Myles B S.: The effectiveness of social skills intervention targeting nonverbal communication for adolescents with Asperger syndrome and related pervasive developmental delays.Focus Autism Other Dev.Disabilities, 17(2)112-118(2002)

Barry, T D., Klinger, L G., Lee, J M., Palardy, N., Gilmore, T., & Bodin, S D.: Examining the effectiveness of an outpatient clinic-based social skills group for high-functioning children with autism. J.Autism Dev.Disord.33 (6)685-701(2003)

Bartlett, S.C., Armstrong, E., & Roberts, J.: Linguistic resources of individuals with Asperger syndrome.Clinic. Linguis. Phone, 19(3), 203-213(2005)

Bernard-Opitz, V.: Pragmatic analysis of the communicative behavior of an autistic child. J.Speech Hear.Dis, 47, 99-109(1982)

Bishop, D.V.M.: Development of the children’s communication checklist (CCC): A method for assessing aspects of communicative impairment in children. J. Child Psychol.Psychiat, 39(6), 879-891(1998)

Bishop, D.V.M. & Norbury, C. F.: Executive functions in children with communication impairments, in relation to autistic symptomatology I: Generativity. Autism, 9(1), 7-27(2005)

Bruner, J.S., & Feldman.C.”Theories of mind and the problem of autism”.    Und erstanding Other Minds: Perspectives from Autism. S.Baron-Cohen.,      H, Tager-Flusberg.,& D.J.Cohen (Eds.).Oxford University Press.1993,267-291

Capps, L., Kehres, J., & Sigman, M.: Conversational abilities among children with     autism and children with developmental delays. Autism, 2(4), 325-344(1998)

Chin, H.Y., & Bernard-Opitz.V.: Teaching conversational skills to children with autism: Effect on the development of a theory of mind. J.Autism Dev.Disord.30 (6)569-583(2000)

Dennis, M., Lazenby, A.L., & Lockyer, L.: Inferential language in high-function children with autism. J.Autism.Dev.Disord. 31(1)47-54(2001)

Clark, H.H.: Using Language. Cambridge University Press. (1996)

Craig, H.K.: “Pragmatic Impairments” The handbook of child language. Fletcher P & MacWhinney, B. (Eds) Blackwell, 1995, 623-640

Curcio, F. & Paccia, J.: Conversations with autistic children: Contingent relationships between features of adult input and children’s response adequacy. J.Autism.Dev.Disord, 17(1), 81-93(1987)

Dobbinson, S., Perkins.M. & Boucher.J.: Structural pattern in conversations with a woman who has autism. J.Commun. Disord.31, 113-134(1998)

Dobbinson, S., Perkins, M., & Boucher, J.: The interactional significance of formulas in autistic language. Clinic. Linguis. Phnet, 17, 4-5,299-307(2003)

Eales, M.J.: Pragmatic impairments in adults with childhood diagnoses of autism or developmental receptive language disorder. J.Autism Dev.Dis, 23(4)593-617(1993)

Fine, J., Bartolucci, G., Sztmari, P., & Ginsberg, G.: Cohesive discourse in pervasive developmental disorders. J.Autism Dev.Dis, 24(3), 315-329(1994)

フリス,U:自閉症の謎を解き明かす.東京.東京書籍(1991)

ギルバーグ,C.:臨床的・神経生物学的に見たアスペルガー症候群-六例の家族研究から-.フリス,U.() 自閉症とアスペルガー症候群. 東京.東京書籍.1996,223-260

Ghaziuddin, M., & Gerstein, L.: Pedantic speaking style differentiates Asperger syndrome from high-functioning autism.J.Autism Dev. Disord, 26,585-595(1996)

Gray, C A.: “Social stories and comic strip conversation with students with Asperger syndrome and High-Functioning Autism” Asperger Syndrome or High-Functioning Autism Schopler, E., Mesibov, G B., & Kunce, L J.(Eds.) New York, Plenum Press,, 1998,167-198

グレイ,C.,& アビー,A.L.:マイソーシャルストーリーブック.東京.スペクトラム出版社(2005)

Hadwin, J., Baron-Cohen, S., Howlin, P., & Hill, K.: Does teaching theory of mind have an effect on the ability to develop conversation in children with autism? J.Autism Dev.Disord.27 (5), 519-537(1997)

ハッペ,F.G.E.:“アスペルガー症候群の成人による自伝-解釈の問題と理論への示唆”フリス,U.() 自閉症とアスペルガー症候群. 東京.東京書籍.1996,361-423

Happé, F.G.E.: Communicative competence and theory of mind in autism: A test of relevance theory. Cognition, 48,101-119(1993)

Happé, F.G.E.: Understanding minds and metaphors: Insights from the study of figurative language in autism. Metaphor and symbolic activity, 10(4)275-295(1995)

HewittL E.: Infuluence of question type on response adequacy in young adults with autism. J.Commun. Disord., 31,135-152(1998)

Howlin, P. & Rutter, M.: Mother’s speech to autistic children: A preliminary causal analysis. J.Child.Psychol.Psychiat.30 (6)819-843(1989)

Howlin, P., & Yates, P.: The potential effectiveness of social skill groups for adults with autism. Autism, 3(3), 299-307(1999)

Howlin, P.: Outocome with high-functioning adults with autism with and without early language delays: Implications for the differentiation between autism and Asperger syndrome. J. Autism Dev. Disord. 33(1), 3-13(2003)

Jollife, T., & Baron-Cohen, S.: The strange stories test: A replication with high-functioning adults with autism or Asperger syndrome. J. Autism Dev. Disord. 29(5), 395-406(1999a)

Jollife, T., & Baron-Cohen, S.: A test of central coherence theory: linguistic processing in high-functioning adults with autism or Asperger syndrome: is local coherence impaired? Cognition 71,149-185(1999b)

Kanner, L.: Autistic disturbances of affective contact. Nervous Child, 2,217-250(1943)

加藤重弘:日本語修飾構造の語用論的研究.東京.ひつじ書房2003

加藤重広:日本語語用論のしくみ.東京.研究社.2004

Klin, A., & Volkmar, F R.: “Treatment and intervention guidelines for individuals with Asperger syndrome”. Asperger Syndrome. F.R.Volkmar, Klin, A. & S.S. Sparrow (Eds.) Guilford Press, 2000, 340-366

Koning, C., Magill-Evans, J.: Social and language skills in adolescent boys with Asperger syndrome. Autism, 5(1), 23-36(2001)

Losh, M., & Capps, L.: Narrative ability in high-functioning children with autism or Asperger syndrome. J.Autism.Dev.Disord. 33(3), 239-251(2003)

Loveland, K., Landry, S.H., Huges, S.O., Hall, S.K., & McEvoy, R.E.: Speech acts and the pragmatic deficits of autism. J. Speech Hear. Res, 31,593-604(1988)

Loveland, K.: Social Affordances and interaction : Autism and the affordances of the human environment. Ecolog. Psychol.3 (2), 99-119(1991)

Loveland, K. & Tunali, B.: Social sripts for conversatrional interactions in autism and Down syndrome J.Autism Dev.Disord. 21(2)177-186(1991)

Loveland, K. & Tunali, B: “Narrative language in autism and theory of mind hypothesis: A wider perspective”, Understanding Other Minds: Perspectives from Autism.S.Baron-Cohen., H, Tager-Flusberg., & D.J.Cohen (Eds.).Oxford University Press, 1993, 247-266

長崎 勤:健常幼児と発達障害児における「心の理解」の発達と援助プログラムの開発.平成1215年度科学研究費補助金研究成果報告書.2004,91-101.

Locke, J.L.:”Development of the capacity for spoken language”. The Handbook of Child Language. P.Fletcher & B. MacWhinney (Eds.) Blackwell Publishers, 1995, 278-302

Loveland, K A. & Tunali, B.: Social sripts for conversatrional interactions in autism and Down syndrome.J.Autism.Dev.Disord. 21(2), 177-186(1991)

Marriage, K J., Gordon, V., & Brand, L.: A social skills group for boys with Asperger’s syndrome. Australlian and New Zealand Journal of Psychiatry, 29, 58-62(1995)

Martin, I., & McDonald, S.: An exploration of causes of non-literal language problems in individuals with Asperger syndrome. J.Autism.Dev.Disord. 34(3)311-328(2004)

Martin, I., & McDonald, S.: Weak coherence, no theory of mind, or executive dydfunction? Solving the puzzle of pragmatic language disorders. Brain and Language, 85,451-466(2003)

McEvoy, R., Rogers, S J., & Pennington, B F.: Executive function and social communication deficits in young autistic children.J.Child.Psychol.Psychiat.34 (4) 563-578(1993)

McTear, M.F. & Conti-Ramsden, G.:”Pragmatic Disability in Children” Whurr Publishers, London, 1992.

Mitchell, P., Saltmarsh, R., & Russell, H.: Overly literal interpretations of speech in autism: Understanding that messages arise from minds. J.Child.Psychol.Psychiat.38 (6)685-691, 1997

Ninio, A. & Snow, C.E.:PragmaticDevelopment.Boulder. Westview Press, 1996.

Noens, I & VAN Berckelaer-Onnes, I.: Making sense in a fragmentary world: Communication in people with autism and learning disability. Autism, 8(2)197-218(2004)

大井 学: 高機能広汎性発達障害をもつ子どもの仲間相互作用.特殊教育学会第38回大会発表論文集.549(2000a)

大井 学: 高機能広汎性発達障害をもつ子どもの支援-心、仲間、コミュニケーション-.特殊教育学会第38回大会発表論文集,152(2000b)

大井 学:高機能広汎性発達障害をもつ子どもとの会話.発達,85,68-75.(2001a)

大井 学:障害をもつ人との会話-重度知的障害、語用論、高機能広汎性発達障害.語用論研究,3,71-85(2001b).

大井 学:「誰かお水を運んできてくれるといいんだけどな」:高機能広汎性発達障害のコミュニケーション支援.聴能言語学研究,19(3)224-229(2002)

大井 学:語用障害の補償から学びへ.教育と医学,603,12-20(2003)

大井 学:高機能広汎性発達障害をもつ人へのコミュニケーション支援.障害者問題研究,32(2),22-30(2004)

大井 学:青年期のグループ活動がもつ意味-仲間がいて成長がある.杉山登志郎()アスペルガー症候群と高機能自閉症-青年期の社会性のために.東京.学習研究社 ,2005.168-173

Oi, M.: Interpersonal compensation for pragmatic impaiments in Japanese children with Asperger syndrome or high-functioning autism. J.Multiling.Commun.Disord, 3(3), 203-210(2005)

大井佳子・中川幸子: 「僕の伝えたいことは散らばったことばの中に」 子どもと話す:心が出会うINREALの会話支援.大井 学・大井佳子(編)京都.ナカニシヤ出版,2004, 21-39.

Oke, N J., & Schreibman, L.: Training social initiations to a high-functioning autistic child: assessment collateral behavior change and generalization in a case study J.Autism Dev.Disrd, 20,479-497(1990)

Ozonoff, S., Pennington, B.F., & Rogers, S.J.: Executive function deficits in high-functioning autistic individuals: Relationship to theory of mind. J.Child Psychol.Psyciatry, 32, 1081-1105(1991)

Ozonoff, S. & Miller, J.N.: Teaching Theory of Mind: A New Approach to Social     Skills Training for Individuals with Autism.J.Autism Dev.Disord, 25, 4,415- 433(1995)

Ozonoff, S., & Miller, J N.: An exploration of right-hemisphere contributions to the pragmatic impairments of autism. Brain. Language, 52,411-434(1996)

Paul, R., & Cohen, D.: Comprehension of indirect requests in adults with autistic disorders and mental retardation. J.Speech Hear. Res, 28,475-479(1985)

Perkins, M.R.:”An emergentist approaches to clinical pragmatics”. Investigations in Clinical Phonetics and Linguistics. F.Windsor. M. L. Kelly. & N. Hewlett (Eds.).New York.Laurence Erlbaum. 2002, 1-14.

Perkins, M.R.: “Clinical Pragmatics” Handbook of Pragmatics. J.Verschueren, J.-O.Östan, J.Blommaert. & C.Bulcaen (Eds.) Amsterdam. John Benjamins. 2003 ,Online

Perkins, M.R.: Pragmatic ability and disability as emergent phenomena. Clinic.Linguis.Phonet.19 (5)367-377(2005).

Prutting, C.A. & Kirchner, D.A.: “Applied pragmatics”. Pragmatic assessment and intervention issues in language. Tanya M. Gallagher & Carol A.Prutting (Eds.) College-Hill Press, San Diego, California, 1983, 29-64.

Rajendran, G., & Mitchell, P.: Computer mediated interaction in Asperger’s syndrome: The bubble dialogue program. Computers & Education, 35,189-207(2000)

Ramberg, C., Ehlers, A., Johansson, M., & Gillberg, C.: Language and pragmatic functions in school-age children on the autism spectrum. Euro.J.Disord. Commun, 31, 4,387-414(1996)

Sansosti, F J., Pwell-Smith, K A., & Kincaid, D.: A research synthesis of social story intervention for children with autism spectrum disorders Focus.Autism.Other Dev.Disabilities, 19(4)194-204(2004)

佐竹真次・小林重雄: 自閉症児における語用論的伝達機能の研究-終助詞文表現の訓練について.特殊教育学研究,25(3)19-30(1987)

スペルベル,D. & ウィルソン,D,:関連性理論-伝達と認知-.東京.研究社.1993

Sperber, D., & Wilson, D.: Pragmatics, modularity and mind-reading. Mind Lang.17 (1, 2), 3-23(2002)

Surian, L., Baron-Cohen, S., & Van der Lely, H.: Are children with autism deaf to Gricean maxims? Cogni.Neuropsychol.1 (1)55-71(1996)

Tager-Flusberg, H.: A psycholinguistic perspective on language development in the autistic child. Autism: Nature, diagnosis, and treatment.G.Dawson (Ed.), 1989, 92.     -115

Tager-Flusberg, H., & Anderson, M.: The development of contingent discourse ability in autistic children. J.Child Psychol. Psychiatry, 32, 7, 1123-1134(1991)

Tager-Flusberg, H.: Autistic children’s talk about psychological states: Deficits in the early acquisition of a theory of mind. Child Dev, 63,161-172(1992)

Tager-Flusberg, H.:”What language reveals about the understanding of minds in children  with autism”.Understanding Other Minds:  Perspectives from Autism.S.Baron-Cohen., H, Tager-Flusberg., & D.J.Cohen (Eds.).Oxford University Press, 1993, 138-157

Tager-Flusberg, H.: “Dissociation in form and function in the acquisition of        language by autistic children” Constraints on language acquisition: Studies of atypical children, H.Tager-Flusberg (Ed.), 1994, 161-172.

Tager-Flusberg, H.: Brief report; Current theory and research on language and communication in autism. J.Autism.Dev.Disord, 26(2), 169-172(1996)

高橋和子: 高機能自閉症児の会話能力を育てる試み-応答能力から調整能力をめざして.特殊教育学研究,34(5)99-108(1997)

高橋和子: 高機能広汎性発達障害児集団でのコミュニケーション・ソーシャルスキル支援の試み-語用論的視点からのアプローチ.教育心理学年報.44,147-155(2005)

谷 康:コミュニケーションの自然誌.東京.新曜社.

Van Bourgondien, Mary E., Mesibov. & Gary B.; Humor in high-functioning autistic adults J.Autism Dev. Disord., 17(3), 417-424(1987)

綿巻 徹、西村辨作、佐藤真由美:話しことばをもつ自閉症児における発話の機能.聴覚言語障害,13,43-60(1684)

綿巻 徹:自閉症児における共感獲得表現助詞「ね」の使用の欠如:事例研究.発達障害研究,19(2),146-157(1997)

綿巻 徹:“言葉の使用からみた心の交流”子どもが「心」に気づくとき.丸野俊一・子安増生().京都.ミネルヴァ書房,1998,143-170

Werth.A. Perkins.M.R., & Boucher, J.: 'Here's the weavery looming up. Autism, 5(2), 111-125(2001)

Willcox, A. & Mogford-Bevan, K.: “Applying the principles of conversational analysis in the assessment and treatment of a child with pragmatic difficulties” Pragmatics in Speech and Language Pathology. Nicole Müller(Ed) John Benjamins Publishing Company, 2000, 125-138.

Ziatas, K., Durkin, K. & Pratt, C.: Belief term development in children with autism, Asperger syndrome, specific language impairment, and normal development: Links to Theory of mind development J.Child Psychol.Psychiat, 39(5), 755-763(1998)

Ziatas, K., Durkin, K., & Pratt, C.:  Differences in assertive speech acts produced by children with autism, Asperger syndrome, specific language impairment, and normal development. Dev. Psychopath, 15, 73-94(2003).